砂古玉緒さんに聞く イギリス菓子の世界

みなさん、「イギリス菓子」と言われたらどんなお菓子を思い浮かべますか?

アフタヌーンティーでいただくティースタンドに盛られたスコーンや、
メレンゲをのせて焼いたレモンパイ、チーズフィリングをのせたキャロットケーキなど・・・
いくつかは思いつくものの、フランス菓子に比べると、専門店も食べる機会も少ないような気がしますよね。

実は、前述のお菓子以外にも、地域ごと、季節ごとに実に様々なお菓子があるんです。

知っているようでまだまだ知らない、イギリス菓子。
NHK連続テレビ小説「マッサン」でスコットランド料理・菓子の製作指導をされ、
先日クオカスタジオでレッスンをしてくださった
英国菓子教室The British Pudding主宰の砂古玉緒さんにその魅力を存分にお伺いしました!

イギリス菓子 砂古さん イギリス菓子 スコーン イギリス菓子 サマープディング

cuoca
早速ですが、イギリス菓子との出会いはどんなものだったんですか?

砂古さん
イギリスに行ったのは夫の転勤で。
そのとき隣に住んでいた奥さんにお茶に誘われて、
彼女の作った焼き菓子のおいしさに感動したのがきっかけです。
とても料理上手な人で、一緒にお菓子を焼いたり料理を教えてもらって、
どんどんはまっていったんです。

それが22年前のこと。
最初イギリスに3年住んで戻ってきたのですが、
さらに真剣に学んでみたい!と製菓専門学校へ入りました。
京都の製菓専門学校で勉強し、製菓衛生師の国家資格を取りました。

それからまたイギリスに身一つで行って。型も何も持たず、本当に身一つという感じ。
でもそこでお菓子作りを教えて欲しい、という声をもらって。
現地で洋菓子教室を開きました。

cuoca
そこまで砂古さんを動かした情熱というか、魅かれた理由はなんだったんですか?

砂古さん
うーん。とにかく、おいしい!大好き!その気持ちです!!
あとはシンプルで簡単で、私でも家族に作ってあげられるものだったこと。

イギリス菓子はまず家族で食べるもの、お母さんが作るものなんです。

イギリス菓子 砂古さんインタビュー

今晩何かお菓子作ろうか、今日は日曜だから、子どもと一緒にやろうか、
という風に、日々の生活に根ざしているものがとても多い。

もちろんイギリスにもクリスマスやイースターなどの特別な日はあるけれど、
その時食べるのはお店で買ってくるお菓子じゃなくて、
お母さんから子どもへ受け継がれてきた家庭の味のお菓子です。
おふくろの味みたいなね。ここはちょっと日本と似ていますよね。
あとは道具もね、何代にも渡って受け継いでいきます。

cuoca
今日のレッスンで、おばあちゃんの時代からずっと使っているプディングベースのお話がありましたね。

砂古さん
そう、それは絶対他で手に入らない、買えないもの。
そのプディングベースは友達と一緒に作ったときに見せてもらったのだけど、
もうキズだらけなんです。ちょっと欠けていたりもする。
でも買い換えずに、ずっと、とても大事にしていました。

cuoca
家族の歴史が詰まっているんでしょうか。

砂古さん
そうですね。私があるおじいさんから聞いた話なんですが、
そのおじいさんのおばあさまは、ガスも水道もない時代に
クリスマスプディングを毎年10個以上作っていたんですって。
1つの家族に1つずつ贈るんです。
結婚などで家族が増えれば、プディングも1つ増える。
クリスマスプディングが増えることは、最上の喜びだって言っていたそうです。

そのあと、
「あなたは水道もオーブンもあるでしょう。買わずにちゃんと作りなさい」
って言われましたよ(笑)。

イギリス菓子のそういうところが、すごく素敵だなって思ったんです。

cuoca
味も道具も、家族を大切にする気持ちも受け継がれているんですね。

砂古さん
新しいお菓子もどんどん出てきますよ。
今日のレッスンでやったようなふわふわ食感のスコーンは
ロンドンでうまれた新しいタイプ。人の好みは移り変わっていきますから。

イギリス菓子 スコーンアレンジ

でも、古いものも廃れないんです。
例えばカップケーキ。
最近の流行りはニューヨーク発祥のアイシングタイプだけど、
イギリスでは昔からバタフライカップケーキというものがあるんです。
子どもの誕生日会には今でもこれが欠かせないの。

cuoca
かわいいしおいしそう!
イギリスのお菓子は歴史のあるものが多いんでしょうか?

砂古さん
昔の生活の苦労の中から出てきたものはすごく多いですよ。
とても厳しい環境の国なので暮らしの知恵が詰まっています。

オーツ麦も、固くて食べられないから煮ておかゆにしていたんですが、
それがそのまま、現在でも伝統料理になっている。
スコットランドのポリッジですね。
そこにはいろいろな歴史があって、調べだすと楽しいんです。

イギリス菓子に魅かれたきっかけは奥様の焼き菓子だったけど、
こういう背景も含めて、どんどん好きになっていきました。

cuoca
イギリスはもともと古いものを大事にする精神がありますよね。
砂古さんの著書を読んで驚いたんです。
思っていた以上にイギリス菓子ってたくさん種類があるんですね。

砂古さん
そう、まだまだ知られていないイギリス菓子がいっぱいあるの!

cuoca
今日のレッスンのサマープディングはどういうお菓子なんですか?

サマープディングの画像 材料のベリー

砂古さん
うまれたのは暮らしの工夫から。
古くなったパンを食べきるために果汁に浸したんです。
現代では目的はもうそこにないけれど、
屋外でなにかあるときによく登場するお菓子です。

cuoca
屋外?パーティーメニューということですか?

砂古さん
イギリスの夏はすごく短いんです。1ヶ月くらい。
だからその時期に、そのときしか食べられないフレッシュベリーをこれでもかと贅沢に使って週末などにおもてなしをするんです。
テラスやお庭で陽射しを浴びながら、みんなで夏を思い切り満喫するの。
前日に作っておけるお菓子だから、集まりごとにもぴったりなんですよ。

cuoca
確かにすごい量のベリーでした!
ひんやり甘酸っぱくてしっとり。夏にぴったりのおいしさでしたね。

砂古さん
でもイギリス菓子って、ふんわりした食感よりどっしりしたものが好まれるんですよ。
ケーキでも、フランス菓子は必ず空気を入れて作るけど、
イギリスでは泡だて器を使わずに木べらだけで作ったりします。

イギリス菓子 砂古さんインタビュー2

cuoca
え!そういう作り方はあまり聞いたことがないですね。

砂古さん
一度イギリスのおばあちゃんにシフォンケーキを出したら、
「空気を食べているみたい。リッチじゃないわね」って言われちゃいました。
みっちりしてどっしりして、ドライフルーツとかがたっぷり入っている、
というのがリッチでおいしいっていうものらしいです。
フォークを刺したら立つくらいじゃないと物足りないとかね。
紅茶と一緒に食べるからそのくらい濃厚なものが好まれるんでしょう。

生クリームのふわふわデコレーションケーキというものはあまり無くって、
誕生日パーティーで作ったら誰も手をつけてくれなかった、ということもありました。

cuoca
それも初めて知りました!
作り方もそうですが、使っている材料も少し独特なものがありますよね?

砂古さん
ゴールデンシロップとかですね。
あれはイギリス家庭には必ずあります。料理にもお菓子にも使う。
白砂糖を作ったときの副産物からできていて、ちょっとえぐみがあります。
濃厚なタイプのブラックトリークルはなかなか日本で見かけないけれど、
これを使ったタルトは本当においしいですよ!

あとはクロテッドクリームもそう。
もともと毎日大量に生まれる生乳を、形を変えて消費するために生まれたのがクロテッドクリーム。
イギリスでは、新鮮でおいしくて安価で手に入ります。
ティールームでも山盛りで出てくることもあるし、おかわりはたいてい無料です。

cuoca
シロップもクリームも、どちらも材料を無駄にしない、という知恵からできたものなんですね。

砂古さん
質素なつくりで合理的。それもイギリス菓子の魅力ですよ。
スコーンだって最初はもっと大きくておなかを満たすためのものだったし、
シロップたっぷりのパウンドケーキだって、日持ちする労働者のエネルギー源としてうまれたんです。
そしてどれもおいしくて、現代までずっと受け継がれている。
ひとつひとつに背景と歴史があって、古書を読みながら紐解いていくと、本当におもしろいんです。
意外と知られていませんが、地方菓子もたくさんあります。
もともと4つの国が集まった連合国ですから。

cuoca
私たちが知らないお菓子がまだまだいっぱいありますね。

砂古さん
日本人はお茶や紅茶も好きですから、イギリス菓子を知って、食べてみればきっと好まれると思うんですよね。
映画とか、ドラマでもいろいろなエピソードに使われていますよ。
スコットランド菓子の製作指導をした「マッサン」では、
主人公マッサンとエリーを銀貨と指ぬきでつなげたのがクリスマスプディングでした。

cuoca
そうそう、ここにある陶器の型が、プディングを作る型ですか?

イギリス菓子 プディングベース

砂古さん
はい、プディングベースっていうんですが、これで何でも作ります。
焼くのも蒸すのもこれ1つで。
こちらの大きいものはミキシングボウルです。

cuoca
これで材料を混ぜたりするんですか?
陶器製のものって初めて見ました!

砂古さん
プディングベースとは側面の立ち上がりの角度が違うの。
MAYSON CASH(メイソンキャッシュ)というブランドの「ケーン」というシリーズで、
ミキシングボウルの中では一番古い、ずっと昔から使われている定番です。

これ、すごく重たいんですよね。
今はもっと軽くて使いやすいボウルもたくさんあるんだけど、
でもやっぱりこれじゃなきゃ!という感じ。
このボウルと、木ベラ1つでお菓子を作っていくんです。

道具の話で言うと、イギリス菓子は型を使わないものが多いです。
スコーンももともとは生地を落としてそのまま焼くドロップタイプだったり。
型というのは上流階級の人しか持っていないもので、一般の人は買えないものでした。

cuoca
焼きっぱなしの素朴な雰囲気がありますよね。
男性的というか・・・

砂古さん
まな板も使わないんですよね!
お鍋の上でサクサク切りながらポイポイ入れていっちゃう。
そうそう、マッサンのエリーも、物語の前半と後半で料理の仕方が違うんですよ。
最初はまな板をあまり使わない設定だったの。

cuoca
でも一方でこんなかわいいスプーンもあるんですね!
これはなんですか?

イギリスカトラリー スプーン

砂古さん
シュガースプーンですね。持ち手の素材や彫りが素敵ですよね。
少し大きめの穴がいくつもあいていて、グラニュー糖を降りかけるのに使います。
日本でもアンティークのお店で結構売っていますよ。

見慣れない道具もあるかもしれませんが、本当にイギリス菓子ってシンプル。
計量も混ぜ方もそこまでシビアじゃないし。
型をあまり使わないのも、当時の一般人が買えなかったから、
というのが理由なんだけど、
これを現代でレシピとして紹介すると
「型のいらない簡単なお菓子」って見方になりますよね。
だからイギリス菓子って、初心者の人にもとっつきやすいレシピが多いんです。

cuoca
砂古さんのお教室では、現地の道具やレシピで作るんでしょうか?
日本人向けにアレンジしたりは?

砂古さん
ほとんどしないですね。
ケーキも泡だて器は使わず、木ベラで作ります。
ビクトリアケーキなども、ふんわりとしたスポンジケーキにはならないから
固いー、とか、ぼそぼそしてる、と言われることもあります。

でもこのケーキは、名前の通りビクトリア女王に由来するもの。
夫を亡くした悲しみの時期を支え、再び女王として立ち上がったとき
それをお祝いしたケーキでもあるんです。
そんな歴史も一緒に伝えたいから、本場のレシピをそのままお教えしていますよ。

イギリス菓子 砂古さんインタビュー3

cuoca
クオカスタジオではサマープディングとスコーンを教えていただきましたが、
他にもおすすめのイギリス菓子はありますか?

砂古さん
今の時期作るなら、日本の夏は暑いから、作ってすぐに食べられるお菓子がいいですね。「パブロバ」や「イートンメス」がおすすめかな。

どちらもサクサクに焼いたメレンゲ、苺などのフルーツ、ホイップクリームで作るお菓子です。
タルトのように焼いたメレンゲにクリームとフルーツを乗せたのがパブロバ、
メレンゲを砕いて全部を混ぜ合わせたのがイートンメスです。
パブロバはロシアのバレリーナから、イートンメスはイギリスの名門男子校、イートン校が名前の由来なんですよ。おもしろいでしょう。
どちらも用意する材料は少ないし、とっても簡単でおいしいです。
ぜひ試してみてください!

砂古さん、ありがとうございました!
お菓子の名前や道具、エピソードなど、
初めて耳にすること、目にすることばかり。

砂古さんのイギリス菓子への愛がひしひしと伝わってきて、
さっそく自分でも作ってみたくなるインタビューでした。

お話に出てきたお菓子たちは、
残念ながら現在のクオカレシピではご用意がありません。

すぐに作ってみたい!
イギリス菓子をもっと知りたい!
という方は、砂古先生の著書を見てみてくださいね。

「イギリスの菓子物語 ~英国伝統菓子のレシピとストーリー~」
砂古玉緒(著) マイナビ出版より発売
 定番菓子、伝統菓子、季節菓子などイギリス菓子全57品掲載。
 お菓子の由来や歴史に関するストーリーも多数。

秋にもまた季節のイギリス菓子のレッスンをお願いする予定です。
今度はどんなレシピを教えてくださるのか、楽しみですね!

ご興味のある方は、ぜひクオカレッスンスタジオへ!
http://studio.cuoca.com/